[3671] 雪だるまは悪くない 投稿者: 投稿日:2003-09-30 (Tue)
●by 機長

<ひとしずくの夢>

■2003/09/29 ひとこと(Visorの衣装部屋)

“ パルマガなどで詳しく紹介されていますが、Handspring(アメリカ)がニューヨークでTreo 600の発表イベントを行ったそうですね。こういうのを見ると、日本でも販売されないかな・・・って思ってしまいます。(中略)と、思っていたらこんな記事が。(後述)”

 …という文章に続いて紹介されているのが、以下の記事。

■英シンビアン、NTTドコモに技術提供(Wired)

“英シンビアン社は26日(現地時間)、NTTドコモと、「オペレーター・テクノロジー・インテグレーター」契約を結んだと発表した。ドコモは、携帯電話向け『シンビアンOS』を『FOMA』向けに改良し、携帯電話メーカーに配布できることになった。ドコモがシンビアンとの関係を深めたことで、日本でも採用端末が増えそうだ。”



 さて、この記事は私も注目していたが、確かに一度は消えかけた夢が少しだけ復活しそうな記事だ。シンビアン搭載のFOMAがOKなら、PalmOS搭載のFOMAがあってもいいじゃないか?!と思うのだが、そうそう簡単にはいかないんだろうな?いろいろ難しいことがありそう。しかも、Treo 600がそのまま日本語版として発売されるならともかく、日本のメーカーがPalmOSをもとに端末を作って、どれぐらい素敵な携帯端末が生まれるんだろう?という不安もある。いっそのこと、SONY社がPalmOS搭載FOMAを作ってくれたら嬉しいけれど、どうだろう?やっぱりカンパニー制の障壁が邪魔したりするんだろうか?(※ソニー社のカンパニー制については後述)

 でも、出てくれたら嬉しいな〜〜〜!ソニー社じゃなくてもイイから、どっか出して〜〜〜!

※ところで、Visorの衣装部屋さんには、Palm&NTTドコモの提携話も出てた!懐かしい!



<カンパニー制の利点と欠点>

■ソニー辻野CP、コクーン戦略を大いに語る(ZDNN)

“9月8日にこの連載で「コクーン、敗れたり?」を掲載したところ、コクーン部門の責任者であるホームストレージカンパニーの辻野晃一郎プレジデントから「戦略について直接ご説明したい」との申し出を受けた。さぞや怒られるのかとビクビクもので行った筆者だが……。”

 先日ZDNNに登場した小寺信良の記事「コクーン、敗れたり?」に対して、ソニー社の責任者自らがZDNNに取材を逆指名してきたという話。こーゆー試みは、なかなか面白いと思う。

 ただ、以前にパルマガで私も書いたが、最近の急激な社会需要の変化に対して、ソニー社のカンパニー制は少し邪魔になっているような気がする。ソニー社がカンパニー制にしたことで長所になっている点だってあるのだが、その弊害が最近しばしば見えるようになってきた。ひとつはユーザからわかりにくいブランド分類の問題だが、同時に、ブランド分類ゆえに生まれにくい製品もある。CLIEについても、テレビとの合体や、通信端末との合体、ゲーム機器との合体など、今後、その利害がカンパニー間で複雑に絡み合ってきそうな進化の展開は容易に想像がつく。そんな時に、スピーディな展開とブランド定義が可能になればいいのだが…。とにかく頑張れ、ソニー社!いっそのこと、プロデュース・カンパニーというカンパニー間の利害調整を専門とする別会社を作ったりして?

 ところで、この記事の後編の最後に以下のような文章が登場する。

“現在のテレビ産業は、コマーシャルという広告資金をベースにすべてが動いている。もちろんNHKを除くが。無料でテレビが見られるのは、ソニーのようなスポンサーがコマーシャルを流す代わりに、番組制作費を提供してくれるからである。ソニーもスポンサーとして、コマーシャルの存在そのものを否定するわけにはいかないだろうが、すでに放送業界ではこのような収支モデルに限界が来ているのも、動かしがたい事実だ。”

 これに関連する記事がWiredに出ていた。

■テレビ番組タメ録りは「CMの死」を招く――米調査会社(Wired)

“米国では、ハードディスクレコーダーの普及率は2%以下にとどまっているが、4年以内に20%近くに上昇する見込み。大容量のレコーダーでは、テレビをまとめ録りして、後で気に入った番組だけ見ることも可能になる。テープと違い、早送りが簡単なので、CM部分を飛ばしてしまう人が増えるという。広告業界は、2005年の半ば、または暮れから、その影響を意識することになるという。テレビ産業は、「広告収入を前提としたビジネスモデルの見直しを迫られる」と警告している。”

 でも、こーゆーピンチこそ、新しいビジネスモデルを産み出すチャンスでもある訳だよね?



<雪だるまの独占>

■渦中の元@Stake幹部、報告書の意図を語る(ZDNN)

“「それを引き起こす原因が、何か特別なものである必要はない。私の雪だるまが坂をころがり落ちたのは、作った雪だるまの種類とは何の関係もないのだ」(ギア氏)”

 先日、私がパルマガの記事「ニューヨークでTreo 600のお披露目パーティ<Microsoft社でもっとも素晴らしいのは!>」(Date: 2003-09-27)で紹介したZDNNの記事「MS批判の報告書を作成した@Stake社員解雇」の続編だ。私に言わせれば、渦中の人である元@Stakeの共同創業者で、そこをクビになったばかりの男、Daniel Gearはとてもまっとうな意見を書いている。つまり、世界的なセキュリティ問題を真剣に考えた時、Microsoft社だからダメなのでもなければ、同社の製品がダメなのでもない、「独占」だけが悪いのだ、と。

参照●「MSの独占がセキュリティを脅かす」――業界団体が報告(ZDNN)
  ●MS批判の報告書を作成した@Stake社員解雇(ZDNN)
  ●CyberInsecurity: The Cost of Monopoly(Dan Gear他)…渦中の論文はpdfファイル




<逆に、面白すぎて>

■ついに開花へと向かうタブレット(ZDNN)

“アプリケーション不足で人気が延びなかったタブレット型PCだが、新たなデザインに向けたメーカーの取り組みやMicrosoftのTablet PCの登場で需要が高まってきている。”

 久しぶりにTabletPCについて取り上げてみた。上の記事はロイター発なのだが、非常に不可思議な記事だ。もうTabletPCの悪口はもう書かないと誓った(←誰に?)はずなのだが、あまりにも面白い記事だったので、久しぶりに書いちゃう。正確に言うと、TabletPCの悪口というよりは、このロイター記事の悪口だ。(もしくは、その翻訳の)

 この記事、とにかく不思議な文章で満ちている。記事タイトルや冒頭の記事概要、あるいは、記事の章タイトルなど、記事全体の雰囲気としては、すでに「MicrosoftのTablet PC」が成功への階段を上り始めているようなムードなのだが、ようく読むと、まだまだこれからだ、ということがほんのりとわかるようになっている。

 レトリック上のトリックをひとつ解説すると、未来に繋がる輝かしい要素はすべて「MicrosoftのTablet PC」が握っている一方で、「MicrosoftのTablet PC」の駄目な部分は(主語を省略することで、)他社のマシンの責任に転嫁している。

 例えば、最初に引用した冒頭の記事概要を読むと、「アプリケーション不足で人気が延びなかった」のは「タブレット型PC」で、それを解決したのは「MicrosoftのTablet PCの登場」だということになっているが、記事の中には以下のような記述が登場する。

“プロミゼル氏は、大学生が授業のメモ取りに使うなど、コンシューマー分野でもタブレット型PCの市場は存在するだろうが、この種のPCが飛躍するために真に必要なのは、企業顧客向けの新しいアプリケーションの開発だと話している。「技術はあっても、アプリケーションが不足していることが主なネックになっている。多くの人は、すべての市場にまたがって、タブレット型PCを本当に生産性を強化するデバイスにするアプリケーションがまだないと考えている」(同氏)”

 この文章の周辺を読んで貰えばわかるが、これは「MicrosoftのTablet PCの登場」以降、つまり、現在の状況に関するコメントだ。つまり、「MicrosoftのTablet PC」が登場しても「アプリケーション不足」は続いているのである。

 そしてこの手の記事にはつきもののフレーズも登場する。

“「タブレット市場で生まれつつある需要は、かなり初期の段階にある。今後に目を向けると、タブレット型PCの潜在需要は極めて高いと思う」と調査会社IDCのアナリスト、アラン・プロミゼル氏は語る。同氏は、Microsoftが昨年Windows XP Tablet PC Editionをリリースしたことがタブレット型PCを後押しているとし、それにはMicrosoftがPC OS市場で90%以上のシェアを占めているという事実が少なからず貢献していると語っている。”

 このあたりまで来ると、やや謙虚な表現ながら「MicrosoftのTablet PC」の需要の少なさを認めているのだが、それを打開する魔法の言葉を並べている。「OS市場で90%以上のシェアを占めている」という言葉だ。この手の言葉は、PocketPCがまだPalm-size PCと呼ばれ、ちっとも魅力のないマシンだった頃にもたびたび使われた言葉だが、今回はちょっと意味が違う。PalmOSのようなライバル企業がほとんど存在しない以上、つまり、市場には需要さえあまりないのだから、市場シェアによって売れるということの意味がわからない。まさに魔法の言葉だ。

 そして記事のクライマックス「最も急速な成長」という勇ましすぎる章タイトルで始まる文章はもっと謎に満ちている。

“タブレット型PCは品揃えも拡大し、通常のPCの機能の大半を備え、電子メールや表計算ソフト、ワープロ、インターネット閲覧などの標準的なアプリケーションも使えるようになっている。”

 それでも売れなかったから「MicrosoftのTablet PC」は苦労してるんじゃなかったの?!と大声で突っ込みたくなるような文章から始まって、以下の文章に繋がる。

“標準的なノートPCを含むポータブルPC分野は、ここ3年間、PC市場全体の中で最も急速に成長している。またこの分野は以前から、利幅の非常に薄いデスクトップPCよりも高い利益を産んでいる。”

 確かに「最も急速な成長」の話が登場するが、それは「タブレット型PC」の話ではなく、「標準的なノートPCを含むポータブルPC分野」の話だ。そこからは簡単なレトリックだけで、以下の文章に繋がっている。

“プロミゼル氏によれば、IDCは、2003年のタブレット型PCの販売台数は全世界で50万台、ポータブルPC市場全体に占める割合は約1%と予測しているという。しかし2007年には、ポータブルPC全体に占めるタブレット型PCの割合は20%を優に超えるかもしれないと同社は見込んでいる。”

 いちおうIDCのデータらしいのだが、なんの説得力もなく、いきなり現状1%のシェアが20%のシェアになるだろうと予測している。ここまで長々と書いてきた中で、その理由はいっさい説明されていないにもかかわらずだ。しかも、日本語訳も見事だ!改めて書いておこう。

“20%を優に超えるかもしれないと同社は見込んでいる。”

 「見込み」なら、「かもしれない」は必要ないと思うのだが、どうだろう?

※…と、いろいろ書いちゃったが、私の翻訳(いわゆる機長訳)の杜撰さに比べれば、素晴らしすぎるほどの文章だということだけは書いておく。